中東カタールで車を運転してみました。
でも、中東、と聞くだけで日本人の多くは「そんな国行って大丈夫?」「治安悪そうだね」と聞いてきますが、でも同じ中東でも、シリアやイラクといった紛争地域とと、カタールのような国とは全く違う状況です。正直言って、とても穏やかで、安心・安定の国で、中途半端な先進国よりきちんとしています。
ただし、普通の日本人旅行者がレンタカーを借りてドライブする時はものすごく重大な問題があります。
ネットを調べてもらえばわかるのですが、日本人でカタールを運転したという人はほとんど見かけません。もちろん現地企業にお勤めの駐在員の方や、長期出張されている方は別ですが、自分のような「気軽な旅をする、フツーの日本人旅行者が、レンタカーを借りてカタールを運転しました」という記事はほとんどないのです。
その理由は・・・・。
実に簡単で「日本発行の国際運転免許証で運転できる国ではないから」です。このサイトで何度も話を出しているのですが、世界には2種類の国際運転免許協定があり、日本の属している「ジュネーブ条約批准国」にカタールは加盟していないのです。よって日本発行の運転免許証を持参しても無効であり「無免許」となってしまうのです。
この状態でカタールを運転したいという場合は2つの方法があります。一つは、現地の運転免許を取得すること。調べてみると比較的簡単な事務手続きでできそうなので、他国に比べるとハードルは低そうなのですが、単なる旅行者には、ほぼ無理な話。もう一つは、どこか別の国で運転免許を取得し、その国の国際運転免許を取得する方法です。これまた普通の旅人には、もっと無理と言える方法です。
でも・・・。いろいろ調べていくと、なにやら、カタールに関しては抜け道がありそうです。というのは国際運転免許の運用に関して、どうやらそこまで厳密ではなさそうなのです。例えば「ハワイを運転するのに、日本の免許のままで大丈夫」のような法律の柔軟な運用(言い換えると「抜け道」)がありそうです。
・・・・ということで「これはもしかしたら、日本発行の国際運転免許でも運転させてくれるかもしれない」と思いましたが、でもどこに問い合わせたらいいのかわかりません。
そこで
「そうだ、レンタカー屋さんに直接聞いてみよう」と思い立ち、「お客様相談窓口」があり、カタールの支店に連絡を取ってもらえそうな会社にメールをしました。出発の数か月前のことです。送ったレンタカー会社は「Alamo:アラモ」。
以下はそのやり取りです
【1通目 自分からAlamo カタールへ】
私「こんにちは。日本人ですが、日本発行の国際運転免許(ジュネーブ条約批准)しかありませんが、カタールで運転することはできますか?」
【2通目 Alamo カスタマーサービス マシューさんより】
「(前略)メールありがとう。よい質問ですね。運転するためには写真付きの(あなたの国の)免許と、国際免許が必要です。国際免許の使用許諾は当方で判断します(後略)」
・・・ん?オイオイ!これでは全然、答えになっていないじゃないですか?もう!!
一見誠実にお返事を頂いたと思いましたが、重要な「日本の運転免許で運転できるのか?」についての可否がわかりません。・・・・・ここが重要なところなので、やり取りの詳細を出しますね。その原文は以下の通り。
Dear ********,
Thank you for contacting Alamo Email Customer Service. My name is Matthew, and I'll be happy to assist you today with your reservation questions!
Great question. Let me share some helpful information on this:License with photo identification free of all endorsements and penalties. In addition, an International Drivers License is required. International licenses are accepted at the discretion of the operator.The rental location will retain photocopies of all driving licenses and passports. An International license is only valid for 6 months use in Qatar.I hope this information was helpful, and if we can provide any further assistance, please don’t hesitate to reply.
We sincerely appreciate your business
Best Regards,
Matthew
Alamo E-mail Customer Service Representative
(原文ママ)
よって、3通目を送りました。今度は自分の国際免許をスキャンし、(個人情報にモザイクをかけて)添付しました。
【3通目 私からAlamo マシューさんへ】
「メールありがとうございます。でも頂いたお返事では、私のライセンスで運転できるかよくわかりません。そこで今回それを添付しました。こちらの国際免許を持参すれば、カタールで運転できるでしょうか?」
【4通目】「ハイ。拝見しました。大丈夫ですよ」
・・とのやりとりがあり、法律的には運転できなくても、多分大丈夫そうとのお返事をもとに、ネットで車を予約しました。
そんな感じで、予約はしていたものの、実際には行ってみなくてはわからない、ということで、ドキドキしながらカタール・ドーハに向かいました。
空港に着くと、日本人の入国はほとんどノーチェック。あっけないほどスルスルと入国できました。ドーハのハマッド空港ターミナルは、巨大で使いやすいと評判ですが、それは特にトランジットの場合。
どうやら、レンタカーを使って街に出ようという旅行者は少ないらしく、出口方面は思った以上にこじんまりした感じでした。レンタカー会社のカウンターも小規模でわかりにくく、ようやくたどり着くとヨーロッパの地方都市の空港よりも小規模のブースが並んでいました。
そして お目当てのAlamoのカウンターですが・・。探してもなかなか見当たらないのです。何度も何度もうろうろしましたが、見にくい場所の片隅に「National rent a car」と併記して「Alamo」と小さく書いてありました。
Alamo/National Rent a carブースの窓口氏は非常にきちんとしたおじさまでした。私の予約確認書と、パスポートや国際免許など書類一式をお渡しすると、スムーズに業務を進めていました。
・・・内心ドキドキしていたのですが、大丈夫そうです。一点だけ質問されたは「この免許証なんだけど、有効期限はいつ?」でした。自分も初めて気づいたのですが、日本発行の国際運転免許証は、発行年月日しか記載されていないんですね。正確に言うと日本語で「1年間有効」とありましたが、それではわかりません。
「・・・えっと、発行日から1年間有効だと思います」というと、「あぁ、そうなんだね・・」とそのまま登録を続けてくれました。ということは、やはり日本の国際免許はここではほとんど見たこともない、ということでしょうが、それでも特に問題になるわけでもなく、淡々と作業をしていたのが印象的でした。
この国は、このようないろいろな国のライセンスを扱う状態に慣れている、ということなのでしょうか?
というわけで、実際にはマシューさんの言う通り、何の心配もなく借りることができました。
【1 運転免許が正式なものでないので、とにかく違反をしない。事故を絶対に避ける。】
前述のように、自分はこの国で通用する正規の運転免許を持っていない状態ですので、いつも以上に、絶対にトラブルを避ける必要がありました。交通法規は絶対に遵守し、事故につながえうような無理な動きは絶対にしないことが重要です。警官の方に止められても困るので、些細な違反も絶対にしないようにしました。
【2 国道1号線は、カメラばっかり。100km/hの制限速度を絶対に、絶対に守る。】
レンタカー屋のおじさまに、注意されたのはこの一点だけでした。「他の道路はいいけど、中心幹線となる国道一号だけは、絶対にスピード違反をしてはいけない。カメラが超大量に設置されているので少しでも超えると捕まるよ」とのことでした。言い換えると、その道を超えてしまえば、スピード制限を超えても大丈夫なお国柄のようです。
【「先進国」と同等以上の運転マナー】
人々の運転マナーがすごくいいです。信号をきちんと守り、運転マナーも悪くない。クラクションを鳴らされることもない。制限速度で走っていてパッシングされることもないし、制限速度を大幅に超えてあおってくることもありません。完全に先進国のような運転マナーです。日本の「運転が荒い」といわれる都道府県の方が怖いくらい・・・。
【道が整備されている】
道路の舗装の精度が先進国並みです。他のアラブ諸国や、アジアの途上国、南米と比べても、絶対にカタールの方がしっかりとした舗装です。また標識が整備されていますので、道に迷いにくいです。しかもほぼ全てにアラビア語だけでなく、かならずラテン文字(英語表記)もされていますので、外国人にも安心です。
【道路の夜間照明が超充実】
とにかく夜間の道路が明るいです。まともな道には、どこもかしこも立派な照明がたくさんついています。もともと単純でわかりやすい道路網なのに、それによってさらにナイトドライブがしやすいです。
そもそも空港近くには、派手に光るLEDの巨大モニュメントが林立しており、良く言うと「華麗」で「美しい装飾」なのですが、悪く言うと「悪趣味」「究極のエネルギーの無駄使い」のような気がしました。
【ガソリン代が安い!】
この国のガソリン価格は、ILあたり60円から80円程度。さすが産油国。この安さは半端ないです。
【英語が普通に通じる!】
カタールは、アラブ人の支配下にある時期がほとんどですが、オスマン帝国の支配下にあった時期もありました。第一世界大戦でオスマン帝国の支配から逃れると、実質的にイギリスの支配下に置かれます。そして1971年の独立まで、イギリスの保護下に置かれていました。そんな歴史的経緯もあり、どこで英語が普通に通じます。加えて、今のカタールの人口280万人(2019年)のうち、カタール人が10%強。残りの約9割が外国人ですので、共通語として英語が必要になっていると思います。統計によると少なくともインド人が50万人。ついでフィリピン人、ネパール人、パキスタン人・・・とのこと。確かにカタールの空港に着いたとたん、空港職員がアジア系の人ばかりだったのに驚きました。またレンタカー屋のお兄さんも貸し出すときはアラブ人の方でしたが、返却時はアジア系の方でした。
【カタールの人が温かい】
自分が出会ったカタールの方々はみんな真面目で温かいかたばかりでした。もちろん中にはそうでない方もいると思いますが、貧しい方がいないということは、多くの方に心の余裕もあるのでは?と感じました。
カタールを運転するときのデメリット
【観光で訪れても見どころが少ない】
もちろん、砂漠と海はあります。砂漠は本当に広く、異国情緒にあふれ、ラクダに乗るツアーなども催行されているようです。そして面している海は美しく、マリンスポーツを行う場所も充実しています。
もちろんイスラム社会独特の「スーク」と呼ばれる市場もあります。
・・・でも、それは、アラブの他国も同じ。カタール独自の・・・と言われると・・・。
遺跡もあります。博物館も水族館もあります。でも、やっぱり、自分のように「あの遺跡を訪れたい!」という明確な目的がないとなかなか訪れにくい国のような気がします。
【周辺諸国への移動が難しい】
語ると長い話ですので、要点のみ。
中東の小国カタールですが、2017年、サウジアラビアやエジプト、UAEなど周辺6か国と国交を断絶されました。
理由はいくつかありますが、一言でいうと「小国のくせに勝手なことをするな。イランの味方をするな」と大国サウジアラビア(とその協調国)に言われたことでしょうか?
でも、カタールの地理的状況を考えると面しているのはイランの接しているペルシャ湾ですのでイラクのご機嫌を全く損ねるわけにもいきません。地政学的に微妙なんですね。そんなわけで、カタールは、アラブ諸国から断絶されている形です。日本の秋田県ほどしかない小国なのですが、航空機などの往来もありませんので、周辺諸国へちょっと出かける、というのが非常に困難です。
【やっぱり、日本人の国際運転免許が使えないこと】
そしてやはり、正式に日本の国際運転免許が使えないことが心配です。無免許状態での運転はやはり問題があると思います。最良の解決方法はどちらの国が、別の条約を批准してくれればいいだけなのですが、それはたぶんかなり難しいこと。可能性があるとすれば、カタールに、もっともっと日本人旅行者が訪れて、そして「日本発行の国際運転免許証を認めてくれ」とカタール政府に働きかける方がいいかもしれません。
アル・ズハラ遺跡に行きたい!
カタールは、ペルシャ湾に接している国。この周辺にはUAEやバーレーン、クウェートなどがの国々が点在し、いわゆる湾岸諸国を形作っているのですが、そのはじまりの様子を今に伝えている遺跡が、今回の目的地アル・ズバラ遺跡です。
今でこそオイルマネーで潤っているこの国ですが、かつては天然真珠の交易が主な産業でした。その真珠交易で栄えた港湾都市の一つがが、アル・ズバラ。1700年代に最盛期を迎えた街ですので、それほど古くはないのですが、真珠交易で蓄えた富でつくった城壁と城砦に囲まれたモスクや宮殿、そして人々の住居などの街並みがありました。
しかし、やがて真珠交易が下火になり、そして1811年、イギリス、オマーンそして、周辺部族との戦いによって壊滅的な被害を受け、街はさらに荒廃。20世紀には人が住まなくなり、ついに街は廃棄されますが、近年発掘が進み2013年にはカタール唯一の世界遺産に登録されました。
なぜ、こんな小規模の商業都市が登録されたのかというとオスマン帝国やペルシアなどの大国の影響力の強いこの地において、大国に組み込まれることなく独立した港湾商業都市として発展・存在できたことは湾岸地域の独立国家の誕生に少なからぬ影響を与えている、と考えられたらしいです。
【日本とのつながり】
砂漠の中にある、アル・ズバラ。日本の風景からは全く異なった世界にある、単なる中東の遺跡に見えるこの都市が衰退した直接的な原因はなんと「日本」でした。
1893年。日本の三重県英虞湾で初の真珠養殖に成功しました。そこでできた真珠は品質も良く、値段も安くあっという間に世界の真珠市場を席巻しました。しかし養殖真珠によって価格は暴落したため、イギリスやフランスでは偽物騒動、敗訴裁判まで行われましたが、結果的に「天然も養殖も品質に全く差はない」という判決が出て、さらに養殖真珠の価値が上がりました。
しかし日本の真珠産業が活況を呈していたその裏で、苦境に陥ったのは天然真珠で生計を立てていた国の人々です。特に1930年代、食料自給率が低く、真珠で稼いだ外貨で生活した人が多かったクウェートでは、世界恐慌の時期も重なり、餓死者が出るほどの大惨事となりました。つまり、この港湾都市アル・ズバラに引導を渡したのは日本の真珠養殖でした。ちなみに、その真珠養殖に成功した日本人は御木本幸吉さん。日本を代表する真珠宝石会社、ミキモトの創業者です。
【アル・ズバラ遺跡へ行くために】
日本とつながっているこの遺跡を見たいと思ったのですが、首都ドーハから105km離れています。地図を見ると、まっすぐ北上して、少し左に行くだけなので、非常に簡単になルートなのですが、そこに行くまでの足が必要になります。調べますと一日3本バスが出ているようです。ですが自分には公共バスを待っているだけの余裕がありません。帰りのバスを捕まえるのも大変です。そこで、できればレンタカー。だめなら現地でタクシーか、どこかの運転手を捕まえて交渉するか、と考えていました。仮にレンタカー屋さんで借り出すときに断られたとしても、レンタカー屋さんに、運転手付きハイヤー情報を聞いてそれを頼ればいいや、ぐらいに思っていました。
そんな、思いを持ってカタールに来ました。結果的には車も借りられて、自分の運転で遺跡も見に行くこともでき、一番良い形での訪問ができました。
カタールの運転、最後は自己責任!
こんなに簡単で楽しいカタールの運転。自分としてはとても満足でした。今度カタール航空が、日本の成田からだけでなく、関空からも飛ぶ、という話を聞きました。カタール航空は、ヨーロッパに往復するのも、その他の地域に行くのにも便利で安い優良航空会社です。今後、
そのカタール航空を利用する日本人もたくさん増えると思います。また、もしかして自分のページなどを見て「自分も運転してみよう」と思う方もいるかもしれません。でも、現状のままでは、やはり「無免許運転」。法律が変わったり、どこかで確証がとれるまでは、いざというときの責任は自分でとる、という覚悟が必要だと思います。
その覚悟さえできてしまえば・・・・。
カタールの運転、すごく楽しいです!