テルアビブの白い都市 - 近代化運動 -
White City of Tel-Aviv—the Modern Movement
【成り立ち】
地中海沿岸のとても小さな漁村 ヤッファ Jaffa 。1900年代初頭にその近くの砂丘にある海辺の小さな村として誕生したのがテルアビブ。イギリスの統治下にあったパレスチナにユダヤ人居留地として建設された町でした。第二次大戦時のイギリスの首相、ウインストン・チャーチルに、「言いにくいが、この場所での都市づくりはおそらくうまくいかないだろう」と言わしめた都市づくりでしたが、様々な要因により世界に類を見ない白い都市が出来上がりました。要因の一つは世界情勢の悪化です。特にナチスドイツの台頭により、ドイツを追われたユダヤ難民の方々の存在、そしてドイツ・バウハウスで機能的な建築を学んだ多くの人々がこの街の建設に注力した結果、4000棟を超える近代的な建築物が林立する都市ができあがりました。
【バウハウス Bauhaus とは】
「テルアビブ」が誕生してからちょうど10年後の
1919年。ドイツ・ワイマール Weimarに、ヴァルター・グロピウス Walter Gropius によって設立された造形学校がバウハウスです。機能を重視しシンプルな美しさを追及する設計思想は高く評価されましたが、ナチス・ドイツ Nazi が政権に就くと、ユダヤ人への迫害を避け、当時英国が統治していたパレスチナに逃れました。その中に、バウハウスのミニマリズム建築を推進する人々がおり、新しくできたばかりの小さな村「テルアビブ」の都市づくりに力を発揮していったのです。中心になったのは、英国人パトリック・ゲデス Patrick Geddes。モダニストの筆頭ともいえる彼の開発基本計画にそって約4000棟の建物が建設されていきました。
【現在の様子】
現在は他の建物も多く立ち並び、そして白い色もかなり褪せてきているものも多いのですが、一つの都市としてこれだけ調和がとれ、機能美が光る建物群はない、とのことで2003年に世界遺産に指定されました。
実はその詳細について書いてあるサイトは多くなく、情報収集に苦労しましたが、結論から言うと市内の多くの場所が指定されているので、指定されているであろう場所を行き来をし、(かなりなんとなくではありますが)白い街を探検してきました。
【首都問題】
過去の話ではなく、”今”の政治的な話になってしまいますが、テルアビブについて語る際、やはり「イスラエルの首都問題」は欠かすことができないと思い、少し書きます。国連はイスラエルの首都をテルアビブと定め、各国の大使館もテルアビブにおいています。当然、日本大使館もテルアビブにあるのですが、イスラエルは自国の首都を「エルサレム」に定めています。国連はイスラエルという国の存在すら認めないアラブ諸国に囲まれて、非常に敏感な「聖地エルサレム」がイスラエルの首都ではあまりにも刺激が強いとして、国連および他国は「テルアビブ」を首都としているのですが、イスラエルとしては、やはり「エルサレム」を首都としたいようです。こんな状態がしばらく続いていたのですが、ここにきて動きがありました。アメリカ合衆国のトランプ大統領が「イスラエルの首都はエルサレムだから、アメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移転しようと思う」と発言し、物議を醸しました。
当然、アラブ諸国をはじめ世界各国が大きな懸念を表明したのですが、なんと2018年5月14日、アメリカ大使館はエルサレムに移転されてしまいました。単なる「施設の移転」ではありますが、これは、アメリカがイスラエルの意図を汲み、イスラエル側につく、つまりアラブ諸国の思いに対抗するという姿勢を明確にしたものであり、アラブ諸国をマイナスに刺激することは間違いないです。ちなみに、なぜトランプ大統領はそこまでユダヤ側についているかというと、娘のイバンカさんの旦那の存在があります。イバンカさんは結婚しているのですが、その旦那はジャレッド・コーリー・クシュナー(Jared Corey Kushner というユダヤの人なのです。一般的にユダヤ人と結婚するということは、配偶者もユダヤ人になる=ユダヤ教の教えに従うということになりますので、身も心もユダヤの味方になって当然です。しかもこのクシュナー。非常に優秀な人で、大統領上級顧問についています。噂では、トランプ大統領主な政策はクシュナーが作っているという話さえあります。
しかも、移転日の5月14日という日は、イスラエル独立宣言の70周年記念日でした。第一世界大戦以後から続くイギリスの策略によってぐちゃぐちゃになった中東情勢の中、アメリカをバックにつけた1948年5月14日のイスラエル独立宣言は、アラブ諸国への猛烈な反発を呼び、翌5月15日にイスラエル vs 全アラブ諸国という、第一中東戦争が勃発・・・というきっかけになった日です。ちなみにこのアメリカのエルサレムへの大使館移転に追随したのがパラグアイとグアテマラですがパラグアイは政権が代わって再度テルアビブに移転したのですが、この行為にイスラエルが激怒。パラグアイ大使館自体を閉鎖、という事態になっています。